先日、ある免震マンションの管理組合の方から、「NHKの報道で免震構造は安全ではないとされていた」と言われました。

一般的に建築物の免震構造は、地震の揺れの力が建築物本体に作用するのを軽減し、耐震上有効であると認識していましたが、どういうことなのだろう、と疑問に思い、NHKスペシャル「あなたの家が危ない~熊本地震からの警告~」をオンデマンドで視聴してみました。その番組の内容は、これまで建築に携わってきた者として、正直言って首をかしげざるをえないものでした。

同番組では、免震構造について長周期地震動による被害のおそれがあることを取り上げていますが、それが弱点であることは既に東日本大震災の後も言われていたと思います。また、免震構造ではその振動を減衰させるために「ダンパー」という装置が取り付けられることがあるということが全く説明されていませんでした。これでは、情報を正確に伝えずに危険を煽っているだけではないでしょうか。

現在の最新の耐震基準を満たしていても、熊本地震では被害を受けた建物があります。それは同番組が報道したとおりかと思います。ではなぜ、最新の耐震基準を満たしていても、被害を受けてしまうのでしょうか。それには耐震基準の設定の考え方と、それに対する熊本地震の個々の地震の発生状況を考える必要がある、と思います。

耐震基準の設定の考え方は、本HPの「マンション管理情報」でも掲載していますが、

「数十年に1度程度発生する中地震(震度5強程度)に対してほどんど損傷しないこと、数百年に1度程度発生する大地震(震度6強~7以上)に対して倒壊・崩壊しないこと」

とされています。つまり、震度6強~7では損傷はやむを得ず許容する水準となっているのです。

そして、熊本地震ではこの震度6強~7の地震が、益城町を中心に3回(震度7が2回、6強が1回)も起こったのです。(6強は大分県近くで後1回発生している)例えば1回目の震度7に耐えても、その後はもう新築時点の耐震性能は維持できていなかったかもしれません。

被災された皆様には心よりお悔やみを申し上げたいと思います。ですが、同番組の報道のように「熊本地震では最新の耐震基準を満たした鉄筋コンクリート造のマンションでも全壊認定されたものがある。よって現在の耐震基準で建てられている全国の建物は危険だ。」という短絡的な解釈は、被災者の皆様への説明としても、全国民への情報としても正確性を著しく欠いているのではないかと、疑問に思います。

「建築物の安全水準をより向上させること」はもちろん重要な課題です。しかし、番組においてその結論を導くために正確な分析や情報を伝えず、ある一面だけを捉えた報道をすることは、却って誤解を招くこととなります。このような報道がされることによって、冒頭の方のような認識がされてしまうのだと、改めてマスコミ報道の影響の強さと恐ろしさを感じました。

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木村誠司
木村誠司
28年間、地方公務員として、建築、都市計画、住宅、開発行政に従事。
自らが居住していたマンションで大規模修繕工事、管理委託契約見直しに尽力。
平成27年6月独立開業。マンション管理士・一級建築士