「陥穽」と書くと大袈裟な表現ではありますが、これまで関わった管理組合の相談事例や運営をみていて、管理組合の皆様の判断にある傾向があるように思われたため、記事にすることとしました。

運営上の課題が生じたときに、どのように解決の方策を探るか、ですが、まず自分の知識及び経験により一定の解決の方向性をイメージしたのち、関連情報の収集をできるだけ行い、その方向性が誤りではないかを確かめるように努めることが必要になります。

しかし、冒頭の「ある傾向」では、自分の知識及び経験により導き出した結論や方針にこだわり、情報収集により得られる貴重で重要な判断材料をみない、或いは既存のルール(管理規約など)より自分の判断を優先させてしまうことがあるように思います。

例えば、管理規約に反した運用をしているのに、「自分は常識ある人間であり、これまでも正しく生活してきた。その私の判断に誤りはない」や、「管理規約は大まかなルールを決めているだけであって、細かい事まで厳密に従う必要はない。その時の人の判断が重要だ」、「管理規約ではそうなっているのは承知しているが、全て守る必要はないのではないか」とのご意見をいただくことがあります。

管理規約などは、自分の判断が誤りではないことを確かめる基本的な情報であることは言うまでもないところですが、その確認すら否定されることがあるのです。これには、規約というルールに則った厳格な運用などをすると面倒である、進めてきた作業が手戻りになってそれを組合員に知られたくない、専門家が厳しい意見を言っているがそこまでやる必要はない、との意識が働く場合があるようにも推察されます。

確かに決められたルールや運営上必要な手順を厳格に守ることは面倒ではあり、皆さんが管理組合運営に携わるとき、ご自分で思い通りに判断し運営したい、と思われるのもわからなくはありません。また、現在定められているルール(管理規約等)が「絶対」という訳でもありませんし、必要に応じて改正することも重要なことです。

しかし、ルールを外れた運営の先には大きな落とし穴が待っている場合があることを忘れてはなりません。誤った組合運営が損害賠償請求や事故・事件に繋がることもあり得るかもしれない、ということです。もしルール自体が適切でないならば、議論・検討を行った上で定められた手続により改正を行った上で、それを守っていくというスタンスが重要です。

自分の考えに拘泥し、思い込みによる拙速な判断で誤った対応をしないように努めた上で、柔軟な視点に立って、例え面倒であっても、必要なルール、手順は守るという基本に基づいて管理組合運営に取り組むことが、結局は落とし穴を避ける一番の安全で確実な道なのではないでしょうか。

投稿者プロフィール

木村誠司
木村誠司
28年間、地方公務員として、建築、都市計画、住宅、開発行政に従事。
自らが居住していたマンションで大規模修繕工事、管理委託契約見直しに尽力。
平成27年6月独立開業。マンション管理士・一級建築士