アスベスト(石綿)は、過去には建築の防火断熱材や自動車のブレーキパッドなど様々な材料に使用され非常に優れた物質として認められていましたが、飛散し人が吸引することによりがんや中皮腫などを引き起こす有害物質であることが発覚し、現在では製造、使用等が強く規制されています。

しかし、近年、現存する建築物において、これまで使用されたアスベストが建材に含有したままとなっていることが指摘され、その対策に行政が規制を強化する状況となっています。

特に飛散性の高い鉄骨の耐火被覆などに用いられていたアスベストは、10年以上前に大きな問題となり、これまで一定の除去等が進められたと思いますが、ここ数年、マンションの大規模修繕工事の関係で話題となっているのは、外壁や上裏(バルコニーの下側で見上げた部分の面)などに用いられている「仕上げ塗材」と呼ばれる塗装材に、アスベストが含まれている場合があるということです。(「アスベスト含有仕上げ塗材」と呼ばれています。)

アスベストは建材に含有しているだけ状態では飛散しませんし、問題はないのですが、その建材を研磨したり、穿孔したりすることなどにより、含有しているアスベストが他の粉塵と一緒に飛散するという危険があります。

大規模修繕工事において外壁等を補修するときには、どうしてもひび割れ部のグラインダー研磨や、ドリル穿孔などが必要になりますし、古い塗膜材の撤去が必要ならば、それをはがす際に研磨したり、掻き落としたりすることとなります。その際、それらの建材にアスベストが含まれていた場合には、飛散防止対策が欠かせないものとなるのです。

したがって、工事前にはマンションの建築部位のうち、アスベストが含まれている可能性のある個所を抽出し、そこからサンプルを採取した上で、アスベスト含有調査を行うことが必要となってきます。

実は、この調査と調査結果の報告が、法律(大気汚染防止法)で義務付けられ、本年(令和4年)4月1日からは、調査結果を所管する自治体に報告することとなりました。(報告義務を負うのは施工会社ですが、調査費は通常発注金額に上乗せされることとなります。)

そして、調査の結果、アスベストが含有していた場合には、法律や当該自治体の条例に従い、含有箇所と補修工事の方法に応じた飛散防止対策をしなければならないのです。

対策は、水などによる湿潤状態での作業や養生による隔離、また場合によっては負圧管理なども必要となり、どこまでの対策が必要となるのかを地元自治体と十分協議し、指導に従う必要があります。

このように、アスベスト含有建材の問題は非常に厄介ではありますが、健康被害を防ぐため、大規模修繕工事実施の際には含有調査を含むアスベスト対応が必要であり、万が一にも飛散等の事故とならないよう留意することが管理組合にとって非常に重要である、ということをご理解いただけたらと思います。

※参考までに横浜市の条例を説明したホームページを下記に紹介いたします。

石綿排出作業に関する手続き(条例に基づく届出等について
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kankyo-koen-gesui/kiseishido/akushu/jorei/sekipan.html

投稿者プロフィール

木村誠司
木村誠司
28年間、地方公務員として、建築、都市計画、住宅、開発行政に従事。
自らが居住していたマンションで大規模修繕工事、管理委託契約見直しに尽力。
平成27年6月独立開業。マンション管理士・一級建築士